旅人をつなぐたましろごはん

 

うさぎひめ

 

 有人島で日本最南端の島、沖縄県波照間島。その島にシーズンに関係なく多くの旅人でにぎわう民宿がある。民宿「たましろ」その人気の要因の一つは食事にある。     

   

 夕飯が始まるのは午後6時。場所は外テーブル。そこに15、6人の旅人が集う。屋根があるから雨でも外。夏は涼しいし、ちょっと肌寒い季節には焚き火をしてくれる。

             

 まず、波照間島でしかなかなか飲めないまぼろしの泡盛「泡波」がでてくる。「まあ、これが噂の泡波ね」などと言いながら水割りを作ったり、蚊取り線香をたいたりして宴会の準備だ。そして運ばれてくる食事の量とメニューの大胆さに驚きつつ、宴会は始まる。

     

 たましろの食事メニューは他では味わえないほどクレージーだ。たとえば、かき揚そばとうな丼とお刺身など。どんぶりいっぱいの炊き込みご飯とどんぶりいっぱいのアーサー汁とお刺身など。見たこともない組み合わせの食事メニューと量に記念写真を撮ったり、ツッコミを入れたりそこで会話が弾む。

         

 麺類はのろのろ食べていたら汁を吸ってふやけて、どんぶりからはみ出る。まだ、半分も食べていないのに、完食するつわものがいる。「デザートのバナナなんて、食べきれないよね」なんて「忘れられたバナナの歌」を作ったりする人がいる。食事だけで、共通の話題は尽きることなく、いつの間にか旅人同士が仲良くなっていく。         

 

 食べる食べないにかかわらず、テーブルに食事が残っているのは、そこにいる理由になるわけで、宴会は夜の11時まで続く。食べ物のそばにいるのが飽きれば、道路に出て天の川を見上げる。焚き火にあたりながら、これからどこに行くのか、旅は始まったばかりなのか、お勧めの民宿はどこかなどの旅情報がとびかう。心に傷を負った旅人は失恋の話をしだす。三線を弾く旅人がいて、歌声に聞き惚れる。そしてまた、思い出したようにおかずをつつき、酒を飲む。

        

 そんな時間を共有した旅人たちは一晩、二晩の付き合いで仲間意識がめばえ、別れがたく島を去るときには港に送りに行き、涙する。そして、日常生活に戻ってもメールのやり取りをしたり、東京で集まったり付き合いは続いていく。

    

 ここで出会った人に恋しキャンプを始めた、ホームページつくりを教えてもらった、タイを一緒に旅したなど彼らのおかげで人生、面白くなった。そんな出会いを後押ししてくれたたましろごはんは偉大だと思う。

    

 今夜も南の果ての島で、たましろごはんをかこみ、酒を酌み交わし、旅人たちが出会いを楽しんでいると思うとうらやましくなる。また、エキサイティングな出会いを求めてたましろに行こう。その出会いは青い海、満天の夜空、風に揺れる赤花と同じくらい私を波照間島にひきよせる魅力的なものだから。

        同人誌VELO12 vol.5 掲載
          *テーマは「食について」

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