「ギャラリーのある街」・・・自分の住んでいる地域についてのルポ

「この体験は筆者にだけ意味があるものであって、
  この作文には読者の視点が全然感じられない。」
  というコメントをいただきました。
  
  まさにそのとおりです。
  文章を書くときに、読む人のことはあまり考えずに
  ひたすら、「自分が書いていて楽しいか」が一番重要でした。

  それは私の生き方もそうで、楽天家で自己中。
  ピアノの演奏とか、絵とか性格でるよなあと思っていましたが
  文章にも、もろにでてしまった。

  文章は日記でないかぎり
  人に読まれてなんぼ、
  人に伝わってなんぼ、
  人の心を動かしてなんぼ。
  ああ、「反省」。
  
  卒業制作の前に心にしみるアドバイスをいただき、本当にありがたいです。

編集会議 編集・ライター養成講座(2005.11−2006.4)の宿題
 

玉川学園前駅周辺には二十ものギャラリーがある。ギャラリーというと高価なものが並んでいるというイメージだし、この地域は坂が多く歩くのが大変そうなので訪ねたことはなかった。しかし今回、商店街とギャラリーの有志による「雛めぐり」というスタンプラリーがあり、お雛様好きの私は参加することにした。

 最初のギャラリーは「工房 藍」。靴を脱いでお邪魔させてもらうと、明治のものから昭和初期のものまで部屋いっぱいに飾られていて圧倒される。時代を経たお雛様には、魂が宿っているのか一つ一つ存在感があるのだ。私のお雛様のように顔に虫食いもなく、きれいなお顔である。お道具もそろっていて、持ち主のお雛様に対する愛情が伝わってくる。

 次のギャラリーは「すぺーす R2」。地図でみると近いけれど、一度坂を下りてまた別の坂を上りたどり着く。小さな部屋には所狭しと吊るし雛が飾ってある。その中でお客さんと世間話をする店主。近所の社交場にもなっているのだろう。

 コンクリートの坂道は嫌だが、地図を片手に歩きギャラリーのおしゃれな看板を見つけるのは宝探しのようで、楽しくなってきた。一度駅のほうに戻って今度は玉川学園に沿って坂を上っていく。私が住んでいるアパートと反対方向でこちらに歩いていくのは初めてだ。だから坂を上ったつきあたりに、すり鉢状の大きな公園を見つけたときには驚いた。ベンチと遊具がおいてあるだけのチマチマした公園ではなく、林をそのまま残したようなワイルドな公園が駅から五分も歩かないところにあったなんて。その公園から歩いてすぐのところに「ギャラリー 風」はあった。高級そうな漆器が並んでいて値段を見るのも怖い。「雛めぐり」という口実がないととてもはいれそうにない雰囲気だ。

 「玉川学園にはなぜ、ギャラリーが多いのですかねえ」と尋ねると「住んでいる人が年をとって余裕がでてきて、趣味で始める人が多いのでは」と話してくれた。そういえばギャラリーの主はご年配の方が多い。いつの間にか、雨が降ってきた。続きは明日だ。

 さて次の日、家から近いところからと無窮会坂を上って「ギャラリー八陶」に向かう。迷って坂道をうろうろ探すのが嫌なので、住所を確かめながら歩いていると陶器の表札と魚の焼物たちを見つけた。ここには窯があって、展示してあるものはここのご主人が作っているものである。ちょっと無愛想な感じで年齢性別不詳のお姉さまだが、並べてある魚の形をした作品がユーモラスで人柄がうかがえる。

 「魚の作品が多いのですがダイビングなどなさるのですか?」と尋ねると、「ダイビングも釣りもしません。インドにいきます」と話しだした。インドの話をしているまわりで猫がかろやかに飛び回る。割れ物ばかりだというのに、加減を心得ているのか作品を倒して割るようなことはない。女主人も「大丈夫ですよ」とのん気だ。そんな不思議空間に圧倒されてお雛様を見るのを忘れてしまった。

 なごりおしいが次なるお雛様をもとめて「サ・バァ?」へ。木製のおしゃれな看板があるが普通の一軒家だ。インターフォンを押すと上品なご婦人がでてきた。案内された部屋には服、アクセサリー、人形、版画などあふれんばかりに並んでいる。そんな中に小さな木彫りのお雛様をみつけた。色は草木染でつけたということで淡くて優しい色だ。道祖神のように寄り添って並んでいるのがかわいい。

お店においてあるビーズのアクセサリーは上のお嬢様が作ったそうだ。そして帰りには下のお嬢様のフルートコンサートのちらしをくださった。ここのご主人はわが娘を愛してやまないお母様でもある。

 最後は「トムズハウス」。ここは設計事務所もかねており、大きい窓と庭がある開放的な雰囲気の店だ。そこで若くて明るい奥様がマクラメや帯を材料にして作ったお雛様を見せてくれた。おいてあるアクセサリーや小物は丁寧に作られていてしかもそんな高価なものではなく、また来たくなるお店である。

 雛めぐりのスタンプの数がたまったところで「二木亭」という喫茶店で使えるコーヒー券をいただく。「二木亭」は通りから引っ込んだところにあるので、なかなか見つからなかった。 「迷ってくる人が多いですよ」とコーヒーを出してくれた奥さん。「この地図も細かい道を全部書いていたら、町内会の地図みたいになっちゃうでしょ」と。あくまでも美しいものが好きなギャラリーの人たちが作る地図は機能より見た目重視か。

 私がまわったギャラリーは全部の三分の一ほど。どこも個性的なご主人と作品に出会える魅力的なギャラリーであった。そのギャラリーもそこに通い、支持する人がいるから続けられるというもの。百円ショップやディスカントものが世の中に広まっている中、ちょっと高いけれど心をこめた手作り品を愛する玉川学園の住人に心の余裕と暖かさを感じたギャラリーめぐりであった。