なりゆき人生の真相





 




 離婚を選んだわけでもない。退職を決心したわけでもない。両方なりゆきだと思っている。

離婚は亭主が家を出て行った。それだけだ。「行かないでと言わなかったから悪い」などと責められたこともある。でも、「行かないで」と言って引き止められていたら離婚などしない。それほど、年月をかけてできてしまった二人の間の溝は深くなっていた。修復不可能。

退職前の私の体と心はぼろぼろだった。通勤途中の駅のホームで涙が止まらない。腰が痛くて30分も座っていられない。原因不明で体が痛くなる。心療内科にも行ったが「あんた、明るいね」と聞き入れてもらえなかった。職場にいることに耐えられない。追い詰められていた。辞めるしかなかった。

そんな状況だった。だから「よく離婚した」とか、「思い切って辞めたね」とか言われるけど、そんなたいそうな決心をしたわけではない。

でもひとつだけ心あたりがある。なかなか帰ってこない旦那を待つのに疲れていた時、サイドボードをぼんやり見つめながら「離婚したら生きていけないだろうな」と頭をかすめたことがある。それは否定形でありながら、離婚をはっきりイメージしてしまった瞬間だ。それから「離婚したら」という不安をいだくようになってしまった。

離婚したら、「親は悲しむのかなあ」「一人で生きていけるのかなあ」「マンションどうしよう」と考えていたら、引き寄せられるように離婚に至った。

仕事も「もし何かあったら辞めよう」と思っていたら、何かが次々と起こった。それは私にとって耐えられない嫌な事ばかりだけど、心のどこかで辞めることを決めていたからこそ、ひきつけた事件だった。

ふと思ったことが雪だるまのように大きくなって、現実をつれてくる。その思いは選択というにはあまりにも頼りないが、確実に現実をつれてくるスイッチだ。どうせなら善い事を心に浮かべよう。善い事のスイッチを入れよう。離婚と退職のスイッチを入れてしまってそう思った。

                     同人誌VELO12 vol.4 掲載
                          *テーマは「選択」800字


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